2026年9月26~29日:ASTRO2026
ASTRO 2026 (米国放射線腫瘍学会) に参加し、丹野は、「Development of “DualGADE-Net” for Simultaneous Prediction of Gamma Passing Rates and Absolute Dose Errors In Patient-Specific QA」、甲賀は「Enhancing Deep Learning-Based GTV Segmentation in Head and Neck Cancer: The Critical Role of Target-Specific Manual Registration Refinement」という演題でポスター発表を行いました。
- 日時:2026年9月26-29日
- 場所:Thomas M. Menino Convention & Exhibition Center(ボストン)
- 学会:ASTRO2026
修士課程2年甲賀聖也、丹野陽翔
私たちにとって、今回が初めての国際学会への参加となりました。この研究室に入ることを決めた当初から「海外で学会発表をすること」は目標の一つだったため、実際に現地で発表できたことを大変嬉しく思うとともに、ご指導いただいた先生方には深く感謝申し上げます。
本記事では、ASTROの参加報告にとどまらず、「国際学会に行ってみたいけれど、何から始めればいいかわからない」と悩む学生のためのガイドとしての役割も果たせればと考えています。具体的には、ASTROとはどのような学会なのか、AAPMとの違いは何かといった基本的な情報に加え、研究のマイルストーンの立て方、資金の獲得、抄録の投稿、参加登録、渡航準備、ポスター作成まで、私たちがASTRO参加までに実際に取り組んだことを時系列でまとめました。さらに、「もっと早くやっておけばよかった」と感じた実体験に基づく反省点も盛り込んでいます。演題登録を迷っている修士・博士課程の皆さんの、最初の一歩の後押しになれば幸いです。 国際学会への演題登録を迷っている修士・博士課程の皆さんが、最初の一歩を踏み出すための後押しとなれば幸いです。
ASTROとはどんな学会か
ASTRO(American Society for Radiation Oncology:米国放射線腫瘍学会)は、放射線治療を中心とした放射線医学の分野で、世界で最も権威のある学会です。参加者は1万人以上で、世界中の放射線腫瘍医、看護師、医学物理士、診療放射線技師、ドシメトリスト(線量計画の専門職)など、放射線治療に関わる多くの職種の方々が参加します。2026年の年次総会は、9月26日から30日までボストンで開催され、2,500件を超える演題が発表されました。
ASTROの大きな特徴は、臨床に直結する研究が集まることです。最も注目度の高いPlenary Sessionでは、第III相のランダム化比較試験など、明日からの治療方針を変えうる結果が発表されます。一方で、医学物理の演題も多くあります。物理の領域(Radiation and Cancer Physics)のセッションや物理・生物の口演セッションが設けられており、2026年は学会のプログラム上で「AI」をテーマとするセッションが32、「Adaptive(適応放射線治療)」が31ありました。医学物理の学生にとっても、自分の研究を発表し、議論できる場が十分に用意されています。
AAPMとの違い
医学物理を学ぶ学生にとって、もう一つ身近な国際学会に、AAPM(American Association of Physicists in Medicine:米国医学物理学会)があります。どちらに演題を出すか迷う人も多いと思うので、違いを整理しておきます。
| 項目 | ASTRO | AAPM |
| 正式名称 | American Society for Radiation Oncology (米国放射線腫瘍学会) | American Association of Physicists in Medicine (米国医学物理学会) |
| 会員 | 約11,000人。放射線腫瘍医を中心に、看護師、医学物理士、診療放射線技師などの多職種 | 9,602人(84か国)。医学物理士を中心とする科学者・専門職 |
| 扱う領域 | 放射線治療の臨床全般(疾患ごとの治療成績、臨床試験、治療技術、物理、生物など) | 医学物理全般(放射線治療と画像診断の物理・技術・品質管理など) |
| 年次総会 | 2026年:9月26日〜30日(ボストン) 2027年:9月18日〜22日(シカゴ) | 2026年:7月19日〜22日(バンクーバー) 2027年:7月25日〜28日(コロンバス) |
会員構成や扱う領域から整理すると、AAPMは「医学物理の専門家どうしで、手法や技術を深く議論する場」、ASTROは「臨床医を含む多職種に向けて、研究の臨床的な意義を問う場」です。同じ研究でも、AAPMでは手法の新しさや精度が、ASTROでは「その結果が臨床で何を変えるのか」が、より問われやすいと考えられます。また、AAPMは7月、ASTROは9月の開催なので、研究の進み具合や抄録の締め切りに合わせて選ぶこともできます。
ASTROまでの逆算スケジュール
ASTROの演題締め切りは、学会の約7か月前です。さらに、資金の獲得や研究計画の段取りは、それよりも前から始める必要があります。ASTRO 2026の実際の日程と、こうしておけばよかったという反省をもとに、いつ何をするかをまとめました。
| 時期 | 学会の日程 | やること |
| 研究計画を立てる時期 | — | 夏ごろまでの研究のマイルストーンを立て、その中にASTROでの発表を組み込む。先生方と共有する |
| 投稿を志した時点 | — | 資金の獲得に動き出す。 奨学金・助成金を探し、申請書を書く |
| 〜11月 | — | 研究の問いを1文にまとめ、結果の骨格を作る |
| 12月4日 | 演題登録の受付開始 | ガイドラインを読み、抄録の構成を共著者と相談する |
| 1月〜2月 | — | 抄録を書き、全共著者の確認と利益相反(COI)の開示を済ませる |
| 2月24日 | 演題登録の締め切り(米国太平洋時間 23:59=日本時間 2月25日 16:59) | 投稿料(1演題75ドル)を支払って投稿 |
| 5月14日 | 採否の通知 | 発表形式を確認し、参加登録と渡航の手配を始める 航空券と宿の確保 |
| 6月25日 | 参加登録の早期割引の締め切り | 早めに参加登録をする(学生会員 99ドル、非会員 149ドル) |
| 6月28日 | 演題取り下げの期限 | — |
| 7〜8月 | — | ESTAの申請、航空券と宿の確保。発表資料の作成 |
| 8月13日 | 参加登録の割引料金の最終期限 | これ以降は通常料金(学生会員 199ドル、非会員 249ドル) |
| 9月 | 9月25日に抄録が公開 | 聞きたい演題の下調べ |
| 9月26日〜30日 | 学会本番 | 発表 |
日程は2026年のものです。翌年以降も同じ時期になるとは限らないので、必ず最新の公式情報を確認してください。
ステップ別 具体的にやること
ステップ1:マイルストーンを立てる
最初にやってほしいのは、夏ごろまでの研究のマイルストーンを立て、その中に「ASTROで発表する」を組み込むことです。そして、その計画を先生方と共有します。 こうしておくと、ASTROまでを研究の一区切りとして、アウトプットを出すことに向かって頑張れます。先生方と共有しておくことで、途中で迷ったときにも相談しやすくなります。
ステップ2:資金の獲得に動き出す
演題を志すと同時に動き出さなければならないのが、資金の獲得です。ここは、私たちが今回最も「早く始めればよかった」と感じたところです。今回、乗り継ぎが2回ある便を選んでも、旅費の合計は約35万円になりました。資金獲得のために助成金を調べましたが〆切が早いところが多く、公益財団法人似鳥国際奨学財団の奨学金、一般財団法人丸文財団の助成金申請の2つしか申請することが出来ませんでした。申請してみて実感したのは、ライティングスキルの重要さです。助成金の申請書を書いた経験がほとんどなかったため、何をどう書けば伝わるのかがわからず、苦労しました。
資金獲得で学んだこと
・採否の通知が来てからでは遅い。 資金繰りは、投稿の時点、あるいは投稿を志した時点で始める必要があります。また人に伝える文章にするには時間がかかるので、最初こそ時間をかけて自分の言葉で書いてみる必要があると思います。
・幅広く助成金を探すことが大事。 公募の時期や対象は団体ごとに異なるので、早めに調べておくことが大切です。
・申請書を書く機会があれば、積極的に書いてみる。 申請書のライティングは、経験を積むほど上達すると思います。
ステップ3:採択されたら:参加登録と渡航の手配
採択の通知が届いたら、まず参加登録と渡航の準備です。ASTROの参加登録費は時期によって3段階で上がるので、早めの登録がおすすめです。
| 区分(現地参加・全日程) | 早期(〜6月25日) | 事前(6月26日〜8月13日) | 通常(8月14日〜) |
| 学生・大学院生(ASTRO会員) | 99ドル | 149ドル | 199ドル |
| 学生・大学院生(非会員) | 149ドル | 199ドル | 249ドル |
※ 日本国籍で米国に短期渡航する場合は、ビザの代わりにESTA(電子渡航認証)が必要です。外務省 によると、渡米の72時間以上前までの申請が推奨されており、申請料は1人40.27ドル(2026年1月1日以降)、有効期間は原則2年間です。申請は必ず公式サイト(esta.cbp.dhs.gov)から行いましょう。手数料を上乗せする非公式サイトがあるので注意が必要です。(正規料金+1万ぐらい取られます)
ステップ4:聞きたい演題を下調べする
ASTROでは、同じ時間帯に多数のセッションが並行して進みます。学会のAnnual Meeting Portalで、事前に聞きたい演題をブックマークしておきましょう。2026年は「Artificial Intelligence(AI)」のテーマだけで32セッションありました。探すときは、疾患名ではなく手法のキーワードで検索するのがおすすめです。私は「registration」「segmentation」「multimodal」で探したところ、部位は違っても、自分と同じ課題に取り組む研究がいくつも見つかりました。
当日のこと
我々はポスター発表という形で演題が採択され、丹野は、「Development of “DualGADE-Net” for Simultaneous Prediction of Gamma Passing Rates and Absolute Dose Errors In Patient-Specific QA」、甲賀は「Enhancing Deep Learning-Based GTV Segmentation in Head and Neck Cancer: The Critical Role of Target-Specific Manual Registration Refinement」という演題で発表を行いました。


▲左:甲賀発表の様子 ▲右:丹野発表の様子
ポスターセッションは「対話」の場
私たちが発表したポスターセッションは、オーラルセッションとは違い、発表者と聴衆の距離がとても近いのが特徴です。原稿を読み上げるだけではもったいないセッションだと感じました。周りを見ても、聴衆の目を見て語りかけるように発表している人が多くいました。そのぶん質問もたくさん出ていて、活発な議論が交わされているポスターが多かったです。英語に自信がなくても、ポスターの前なら図を指さしながら聴衆と一対一で話せます。初めての国際学会で研究を発表するには、ポスターはとても良い形式だと思います。(春に行われるICRPTも国際学会ですので練習の場になるかと思います!)
オーラル発表を聞くなら早め早めの行動を
今回の会場、Thomas M. Menino Convention & Exhibition Centerは、春の学会(JSRT・JSMP)の会場であるパシフィコ横浜の何倍もの広さがあります。ポスター会場からオーラルの発表会場まで、遠いと歩いて10分ほどかかることもあります。聞きたいオーラル発表があるときは、時間に余裕をもって移動することをおすすめします。会場を歩き回るだけで、この学会の規模の大きさを肌で感じました。
その他学会での話
企業ブース
企業ブースのエリアは、春の学会のITEMの2〜3倍ほどの広さがありました。日本ではあまり見かけない企業も多かったので、出展企業を事前に軽く調べてから話しかけると、内容が頭に入りやすいと思います。どの企業の方もとても親切で、製品のデモンストレーションも交えながら詳しく説明してくれました。
また、このエリアにはところどころに無料のカフェコーナーがあります。私(丹野)はキャラメルカフェモカをいただきました。ドリンクを片手に、企業の方からフランクに話を聞けるのもASTROならではだと感じました。


▲左:無料のカフェスペース ▲右:頼んだキャラメルカフェモカ
Varianの新型リニアック(Accela)の発表
会場ではVarianの新型リニアックの発表会もありました。会場内に巨大なカウントダウンがアナウンスされ、新製品(Accela)が披露されるという、なんとも派手でアメリカらしい発表でした。(この発表会のことは、そのとき訪れていたMVisionのブースの方が教えてくれました。)
https://cancercare.siemens-healthineers.com/ja/products/radiotherapy/radiotherapy-treatment-delivery


▲左:Accela発表の様子 ▲右:発表されたAccela
その他ボストンでの話
ボストンは魚介類が有名ということで、ロブスターをいただきました!ボストンは物価がとても高く、写真のワインは1杯で2000円以上しました、、合計金額はご想像にお任せします。味は非常においしかったです!!

▲ボストン名物ロブスター
最後に 演題登録を迷っている皆さんへ
私たちがASTROに演題を出そうと決めた理由は二つあります。一つは、ASTROが放射線治療の分野で世界で最も権威のある学会だからです。国際学会に挑戦するなら、世界中の放射線治療の専門家が集まる場で発表してみたいと考えました。
もう一つは、この研究室には、そうした学会で発表できるだけの研究環境と、先生方の手厚いご指導があるからです。自分たちだけだったら「ASTROなんて無理だ」と思っていたかもしれません。それでも、この研究室なら挑戦できると思えたことが、演題登録の一番の後押しになりました。
実は、私たち(甲賀・丹野)も1年目はなかなか結果が出ず、苦戦していました。研究を始めて1年足らずで抄録を出すことになるので、自信が持てないのは当然だと思います。それでも「ASTROで発表する」と目標を決めたことで、締め切りまでに研究をひとまとまりにする必要が出てきました。抄録、ポスター、英語での説明と、段階ごとに研究を見直すうちに、自分の研究の強みと弱みが見えてきました。
現地では、自分も発表する立場だからこそ、他の人の発表を「自分の研究に使えることはないか」と考えながら聞くことができました。抄録の作成から現地での発表まで、すべての過程が確実に自分の成長につながったと感じています。修士課程のうちにこうした経験ができる機会は、なかなかありません。
せっかくこの研究室に配属された皆さん、ぜひ挑戦してみてください。あなたにはその力がありますし、角谷先生をはじめとする先生方のご指導があれば、きっと大丈夫です。
